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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(あ)2715号 判決 1954年11月05日

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

弁護人柴崎四郎の上告趣意は、末尾添附別紙記載のとおりである。

所論は、原判決が当裁判所の判例と相反する判断をしているというのであるが、挙示の判例は、原判決の宣告後になされたものであるから、これを以て刑訴四〇五条二号の判例と解することはできず、所論は適法な上告理由とならない。

しかし職権を以て調査するに原判決は「刑法二五条の法意は本件のように禁錮以上の刑に処する判決を受けた罪の以前に犯していた別罪によって更に罰金以上の判決を言渡される場合をも包含するものであることは明白であり、本件は同条第一号にいうところの前に禁錮以上の刑に処せられたることなき者に該当するという所論は採用できない、従って原審が本件について懲役刑の執行を猶予しなかったのは正当である」と判示して弁護人の控訴趣意としての主張を排斥しているのである、しかしながら本件のように併合罪の関係に立つ数罪が前後して起訴され、後に犯した罪につき刑の執行猶予が言渡されていた場合に、前に犯した罪が同時に審判されていたならば一括して執行猶予が言渡されたであろうときは前に犯した罪につきさらに執行猶予を言渡すことができるとするのが相当であるからかかる場合に限り刑法二五条一号の「刑ニ処セラレタル」とは実刑を言渡された場合を指すものと解するを相当とする(昭和二五年(あ)第一五九六号同二八年六月一日大法廷判決参照)。然るに原審が右のような特別の事情を審究することなく直ちに本件のような場合は常に刑法二五条一号に該当しないとし、その見解の下に弁護人の主張を排斥して執行猶予を附さなかった一審判決を支持したのは、刑の執行猶予に関する法令の解釈を誤った違法がありこの誤は判決に影響し、これを破棄しなければ著しく正義に反するものといわなければならない。よって刑訴四一一条により原判決を破棄し右事情の存否につき更に審理をさせるため同四一三条本文により事件を原審に差し戻すものとする。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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